防犯、事故防止、あるいは店舗のオペレーション改善――。今や街中のいたる所に設置されている防犯カメラですが、実は「設置して録画する」という行為には、常に「個人情報保護法」と「プライバシー権」という2つの法的ハードルがつきまといます。
「よかれと思って設置したカメラが原因で、従業員や顧客とトラブルになった」という事態は、企業にとって大きなリスクです。今回は、個人情報保護士の視点から、実務現場で求められる「正しい設置・運用ルール」を紐解いていきます。
防犯カメラの映像は「個人情報」である
まず大前提として、特定の個人を識別できる防犯カメラの映像は、個人情報保護法上の「個人情報」に該当します。以前の記事(個人情報の定義とは?)でも解説した通り、映像そのものが本人を特定できる情報である以上、その取り扱いには慎重な管理が求められます。
そのため、カメラを設置・運用する事業者は、単なる「設置者」ではなく「個人情報取扱事業者」としての責務を負うことになるのです。
実務で必須となる「3つの運用ルール」
カメラを設置する際、法律とガイドラインが求めている主なアクションは、大きく分けて以下の3点に集約されます。
① 利用目的の公表と「告知」
個人情報保護法では、個人情報を取得する際、利用目的をあらかじめ公表するか、取得後速やかに本人に通知することを求めています。しかし、カメラの前を通るすべての人に個別に通知するのは現実的ではありません。
そこで、個人情報保護委員会のガイドラインでは以下のような「現実的な解」が示されています。
【引用:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)】
防犯カメラにより個人情報を取得する場合、……「防犯カメラ作動中」等の掲示を出すことにより、本人に対して、利用目的を……通知したものと認められる。
出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
つまり、カメラの存在を隠さず、「防犯カメラ作動中」といったステッカーや看板を設置することが、最も基本的かつ確実な法的対策となります。
② 安全管理措置の徹底(保存と破棄)
取得した映像データが外部に流出したり、不正に閲覧されたりしないよう、物理的・技術的な対策を講じる必要があります。これは以前学んだ「安全管理措置」の考え方そのものです。
- アクセス制限: 録画機やモニターを確認できる担当者を限定し、パスワード管理を徹底する。
- 適切な保存期間: 「1週間」「1ヶ月」など、防犯目的を達成するために必要な最短期間を定め、期間を過ぎたデータは自動で上書き・消去される仕組みを整える。
③ 目的外利用の制限
「防犯」目的で掲示を行い設置したカメラを、「従業員の勤務態度の監視」や「マーケティング用の顧客分析」に転用する場合、当初の利用目的の範囲を超えていると判断される可能性があります。別の目的で利用する場合は、その旨を改めて告知するか、特定の個人を識別できない「統計データ」に加工するなどの配慮が必要です。
「プライバシー権」侵害のリスクを回避する
法律(個人情報保護法)上の義務を果たしていても、「プライバシー権の侵害」として民事上の責任を問われるリスクは残ります。これは、個人の私生活上の平穏を守る権利であり、裁判例でも厳格に判断されるポイントです。
カメラの設置が「正当」と認められるためには、以下の3つのバランスが重要になります。
- 設置の必要性: その場所にカメラを置く切実な理由(防犯上の死角、過去のトラブル等)があるか。
- 設置場所の妥当性: トイレ、更衣室、休憩室など、プライバシー期待値が高い場所への設置は原則避けるべきです。また、近隣の私有地や他人の家の窓などが映り込まないよう、画角を調整することも欠かせません。
- 管理の厳格性: 映像をむやみに第三者(警察からの正当な照会等を除く)に見せたり、インターネット上に公開したりしないこと。
導入・運用時のチェックリスト
現場でカメラの設置を見直す際に、以下のチェックリストを参考にしてください。
- 視認できる場所に「防犯カメラ作動中」の表示があるか?
- プライバシーポリシーに「防犯目的でのカメラ利用」が記載されているか?
- モニターの配置は、通りがかりの無関係な人に見えないよう工夫されているか?
- 録画データのバックアップ媒体(USBなど)の持ち出しルールが決まっているか?
- カメラの向きが、必要以上に公道や他人の敷地を映していないか?
まとめ:正しく設置して「安心」をデザインする
防犯カメラは、正しく運用すれば、顧客や従業員、そして会社自身を守る強力な盾になります。
- 法的義務: 設置の告知と、利用目的の明確化をセットで行うこと。
- 実務の肝: 映像データの適切な管理と、保存期間の厳守。
- 配慮の視点: プライバシー権を尊重し、設置の必要性を常に精査すること。
「付けておけば安心」という意識から一歩進み、「ルールに基づいた運用」を徹底することで、信頼される組織環境を作っていきましょう。
【免責事項】
本記事の内容は、公開時点の法令およびガイドラインに基づいた一般的な情報提供を目的としています。個別の事案(具体的な設置場所の妥当性や民事上の損害賠償リスク等)に対する法的助言を構成するものではありません。防犯カメラの設置・運用にあたっては、各自治体の条例等も確認し、必要に応じて弁護士等の専門家へご相談ください。



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