はじめに:空間が変われば「正解」も変わる
前回の第4回では、平地での誘導やお茶出しの基本を学びました。しかし、実際のビジネス現場では、エレベーターに乗り、階段を上がり、いくつものドアを通り抜けて応接室へと向かいます。
こうした「空間の移動」が伴う場面では、基本の「左斜め前」というルールだけでは対応できないイレギュラーが発生します。第5回では、受験生が最も混乱しやすい「エレベーター・階段・ドア」の応用マナーを、論理的なアルゴリズムとして整理します。
エレベーターの乗り降り:どちらが「先」か?
エレベーターでの誘導は、記述問題でも非常によく狙われるポイントです。原則は「お客様が先」ですが、状況によって秘書が先に動くべき場面があります。
① 乗り込むとき
- 外にボタンがある場合: 外のボタンを押してドアを押さえ、お客様に先に乗り込んでいただきます。
- 中に操作盤がある場合: 「お先に失礼いたします」と断って、秘書が先に乗り込み、中で「開」ボタンを押してお客様を迎え入れます。
② 降りるとき
- お客様に先に降りていただきます。秘書は「開」ボタンを押したまま、お客様が完全に降りるのを見届けてから最後に降ります。
覚え方のコツ: 「お客様を不安な空間(誰もいないエレベーター内)に一人で入れない、閉じ込めない」という配慮が根底にあります。操作盤がないエレベーターなら、秘書が先に入ってドアを支えるのが「おもてなし」の正解です。
階段の昇降:位置関係のルール
階段では、お客様を見下ろさない、かつ、万が一の際に支えられる位置取りが求められます。
- 上がるとき: 秘書が「後」から。
- 下がるとき: 秘書が「先」に。
覚え方のコツ: 常に「お客様より低い位置にいる」と覚えましょう。これには二つの理由があります。一つは、お客様を見下ろす形にならないため(敬意)。もう一つは、お客様が足を踏み外した際に、下から支えられるようにするため(安全)です。
ドアの開閉:内開きと外開きの違い
ドアの形状によって、秘書が「先に入るか、後に入るか」が入れ替わります。ここを丸暗記しようとすると混乱するため、動きの整合性で理解しましょう。
- 外開き(手前に引くドア): ドアを引き、自分がドアの外側で押さえて、お客様に先に通っていただきます。(秘書は後から入る)
- 内開き(奥に押し込むドア): ドアを押し、そのまま自分が先に部屋に入ってドアを押さえ、お客様を招き入れます。(秘書が先に入る)
ハックのポイント: 「お客様にドアを押さえさせる、あるいはドアの影に回らせるという手間をかけさせない」のが基準です。内開きのドアで無理にお客様を先に通そうとすると、お客様がドアを押さえなければならなくなるため、秘書が先に入るのが正解となります。
応接室での「最後の一言」
お客様を無事に応接室へ案内し、上座に座っていただいた後の対応です。
- 状況の報告: 「ただいま〇〇(上司)を呼んでまいりますので、少々お待ちくださいませ」
- 退室の作法: 退室する際は、ドアの前でお客様に向き直り、「失礼いたします」と一礼して静かにドアを閉めます。
まとめ:応用マナーの核心は「安全と敬意」
第5回のポイントを整理します。
- エレベーターは「操作盤」を守るのが秘書の役目。
- 階段は、常にお客様より「低い位置」をキープする。
- ドアは、お客様が「押さえる」手間を省くように動く。
- すべての動作に「なぜそうするのか」という安全面・敬意面の理由を持つ。
一見複雑に見える応用マナーも、「お客様に余計な動作をさせない」「お客様を危険にさらさない」という基準で考えれば、自ずと答えは導き出せます。
次回、第6回は「席次(上座・下座)の法則:屋内編」です。会議室、応接室、和室……。空間のどこが最も尊い席なのか。基本原則「左上右下」をベースに、迷わない配置のロジックを解説します。


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