第44回で解説した「EDR(端末での検知と対応)」は、PCやサーバーといったエンドポイントを強力に守ってくれます。しかし、現代のサイバー攻撃は非常に巧妙で、メール、ネットワーク、クラウドサービスなど、複数の経路を組み合わせて侵入してきます。
こうしたバラバラのセキュリティ情報をひとつに束ね、組織全体を「面」で守るために登場したのがXDR(Extended Detection and Response:エックスディーアール)です。今回は、XDRがなぜ次世代の標準と言われるのか、その仕組みとメリットを詳しく解説します。
XDRとは?(EDRとの決定的な違い)
XDRの「X」は「Extended(拡張された)」を意味します。その名の通り、監視対象をエンドポイント以外にも広げたものです。
EDR(エンドポイント特化)
- 監視対象: PC、スマートフォン、サーバーの「内部動作」のみ。
- 課題: 「不審なメールが届いた」「クラウドの設定が書き換えられた」といった、端末外で起きている予兆を単体では把握できません。
XDR(クロスレイヤー監視)
- 監視対象: エンドポイントに加え、ネットワーク、メール、クラウド(SaaS/IaaS)、ID管理(IAM)など、ITインフラ全体。
- 仕組み: 異なる製品から上がってくる膨大なログを一つのプラットフォームに集約し、相関分析(紐付け)を行います。
XDRが解決する「セキュリティの断片化」
これまでのセキュリティ対策は「個別の製品」を組み合わせて使ってきました(サイロ化)。しかし、これでは攻撃の全体像が見えにくいという問題がありました。
攻撃の「点」を「線」で結ぶ
例えば、以下のような動きがあったとします。
- メール: 誰かにフィッシングメールが届いた。
- ネットワーク: 社外の未知のIPアドレスと短時間の通信が発生した。
- エンドポイント: 特定のPCで未知の実行ファイルが動いた。
個別の製品(メールフィルター、WAF、EDR)ではそれぞれ「小さなアラート」として処理され、見過ごされる可能性があります。しかし、XDRはこれらを「一連の攻撃シナリオ」として紐付け、「今、組織が攻撃を受けている!」と確信を持って警告を発します。
XDR導入の3つのメリット
① 検知精度の向上と誤検知の削減
複数のデータを照らし合わせるため、単一のログでは判断がつかない「グレーな挙動」が「真っ黒な攻撃」であることを正確に特定できます。これにより、管理者が対応すべき優先順位が明確になります。
② 調査・対応(レスポンス)の迅速化
攻撃の起点から拡散状況までが自動で可視化されるため、第44回で触れた「原因調査(フォレンジック)」の時間が大幅に短縮されます。
③ セキュリティ運用の効率化
異なるメーカーの管理画面をいくつもチェックする必要がなくなります。また、第41回で解説した「IDaaS」と連携すれば、不審な動きをしたユーザーのIDを自動でロックするといった高度な自動連携も可能になります。
ゼロトラストにおけるXDRの位置づけ
第39回で学んだ「ゼロトラスト」では、あらゆるアクセスを常に検証し、監視し続ける必要があります。
XDRは、この「継続的な監視」を実現するための中心的な役割を担います。第43回で解説した「TLS 1.3」で暗号化された通信であっても、そのエンドポイントでの挙動やクラウド側のログをXDRで相関分析することで、暗号化をすり抜けてくる脅威をも炙り出すことができるのです。
まとめ
XDRは、複雑化した現代のIT環境において、散らばった情報を統合し、守りの精度を一段引き上げる技術です。
- EDRを拡張し、メール、ネットワーク、クラウドまでを一元管理。
- 相関分析により、バラバラの情報を「攻撃の線」として捉える。
- 運用の自動化を促進し、深刻な人手不足が続くセキュリティ現場を支援する。
次回の第46回では、これらの高度な検知システムが吐き出す膨大なアラートをどう整理し、実際の運用に落とし込むのか、その司令塔となる技術「SIEM(シーム)とSOAR(ソア)の役割」について解説します。


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