生成AIに顧客情報を入れてもいい?個人情報保護士が教える「安全な付き合い方」

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ChatGPTやClaude、Geminiといった生成AIの普及により、資料作成やデータ分析のスピードは劇的に向上しました。しかし、そこで避けて通れないのが「個人情報の取り扱い」に関するリスク管理です。

「メールの下書きを作るために、つい顧客名を入力してしまった」「社内会議の議事録を要約させる際、社員の氏名が含まれていた」――。これらは、法律的にどう判断されるのでしょうか。今回は、個人情報保護士の視点から、AI利用におけるリスクと実務上の具体的な対策を徹底解説します。

最大のリスクは「AIによる再学習」と「第三者提供」

生成AIを利用する上で、個人情報保護法との兼ね合いで最も懸念されるのが、入力したデータがAIの学習に使われてしまうことです。

多くの一般向け生成AIサービスは、ユーザーが入力した情報を、モデルの精度を上げるための「学習データ」として利用することがあります。これがなぜ問題になるのでしょうか。

【引用:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起」】
あらかじめ本人の同意を得ることなく、個人情報を含むプロンプトを入力し、……当該個人情報が当該生成AIサービスの学習に利用されることとなった場合、……当該個人情報取扱事業者は、法(第27条第1項)の規定に違反することとなる可能性がある。
出典:個人情報保護委員会(生成AIサービスの利用に関する注意喚起)

個人情報保護法 第27条は、原則として本人の同意なく個人データを第三者に提供することを禁じています。AIに入力し、それが学習(=AIベンダー側での利用)に使われることは、意図しない「第三者提供」に該当するリスクが極めて高いのです。

どこまでが「入力NG」か?実務の境界線

「個人情報はダメ」と言われても、現場では判断に迷うケースが多いものです。具体的な事例で境界線を確認しましょう。

【NG例】特定が容易な情報

  • 顧客名を含むメール返信文の作成: 「〇〇株式会社の△△様へ、先日の見積もりの件で……」といった入力。
  • 個人名が含まれる議事録の要約: 「佐藤部長がA社のB氏に対し、Cという条件を提示した」という内容の流し込み。
  • 履歴書や職務経歴書の添削: 氏名や住所、詳細な経歴が含まれるデータのアップロード。

【OK例】匿名化・一般化された情報

  • テンプレートの作成: 「法人向けの挨拶メールの型を作って」という、特定の個人を含まない依頼。
  • 仮名化による入力: 「A社のB氏」を「甲社のX氏」と書き換えてから入力し、AIの回答を後から手動で修正する手法。
  • 統計データの分析: 「40代・男性・関東在住」といった、特定の個人を識別できないレベルに加工されたデータの分析。

以前の記事(個人情報の定義とは?)で触れた通り、「他の情報と照合して、容易に本人を識別できるかどうか」が判断の基準となります。

安全管理措置としての「AI導入5つのチェックリスト」

企業がAIを導入する際、個人情報保護士としてチェックすべき項目をまとめました。これは、別の記事(安全管理措置のポイント)で学んだ考え方をAIに適用したものです。

  • 利用規約の「学習設定」を確認したか?
    コンシューマー版(無料版など)は学習に利用される設定がデフォルトの場合が多いです。法人向けプラン(API利用やEnterprise版)など、学習に利用しないことが保証されているものを選定しましょう。
  • オプトアウト設定は完了しているか?
    設定画面から「Chat History & Training」をオフにするなどの措置が、全社的に徹底されているか確認します。
  • 社内ガイドラインを策定したか?
    「入力して良い情報」と「禁止する情報」を明文化し、従業員がいつでも参照できるようにします。
  • 教育と周知を行ったか?
    ツールを渡すだけでなく、なぜ入力が危険なのかという「リスク教育」を実施します。
  • 不測の事態のフローが決まっているか?
    万が一、誤って個人情報を入力してしまった際の報告ルートを定めておきます。

プロとして「攻めのAI活用」を提案する

「個人情報を扱うのは危ないからAIを使うな」と言うだけでは、ビジネスの停滞を招きます。合格後のロードマップ(攻めの提案)でもお伝えした通り、私たちは「安全な活用のナビゲーター」であるべきです。

例えば、「プロンプトエンジニアリング」と「プライバシー保護」を組み合わせる提案が有効です。「この情報をAIにかける前に、このツールで自動伏せ字にしましょう」といった具体的なソリューションを提示できれば、実務の現場で絶大な信頼を得られるでしょう。

まとめ:信頼を土台にしたAI活用へ

生成AIと個人情報の関係を整理しましょう。

  • リスクの本質: 入力データの「再学習」による不適切な第三者提供。
  • 実務の対策: 「学習させない設定」の技術的担保と、「匿名化」の運用ルールの徹底。
  • 資格の活かし方: 公式の注意喚起(個人情報保護委員会ウェブサイト)を常にキャッチアップし、社内のガイドラインを最新に保つ。

AIは非常に強力なパートナーです。しかし、その力は「信頼」という土台の上に成り立つべきものです。個人情報保護士として正しい境界線を引き、安全かつ大胆にテクノロジーを活用していきましょう。

【免責事項】
本記事の内容は、公開時点の法令およびガイドラインに基づいた一般的な情報提供を目的としています。個別の事案に対する法的助言を構成するものではありません。生成AIサービスの規約は頻繁に改定されます。実務への適用にあたっては、各サービスの最新の利用規約を確認し、必要に応じて弁護士等の専門家へご相談ください。

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