第29回「SSL/TLSとは?」では、インターネット上の通信を暗号化する基本的な仕組みについて学びました。
現在、Webの世界ではその技術がさらに進化し、「TLS 1.3」というバージョンが主流となっています。一見すると単なるマイナーアップデートのように思えますが、実はTLS 1.2以前とは「別物」と言っていいほど大きな変化を遂げています。今回は、なぜTLS 1.3への移行がこれほど叫ばれているのか、その理由と進化した仕組みについて詳しく解説します。
TLS 1.2以前の「負の遺産」を断ち切る
TLS 1.3の最大の開発目的は、これまでのバージョンが抱えていた脆弱性と複雑さを解消することにありました。
これまでのTLS(1.2以前)は、古いシステムとの互換性を保つために、現在では「弱い」とされている古い暗号技術も使える状態になっていました。これが攻撃者の隙を突く原因となっていましたが、TLS 1.3ではこれらを一切禁止(廃止)しました。
- 脆弱な暗号方式の廃止: 過去に脆弱性が指摘された暗号(RC4やDESなど)を完全に排除。
- シンプルな設計: 暗号の組み合わせを絞り込むことで、設定ミスによるセキュリティホールを防げるようになりました。
通信速度の革命:1-RTTハンドシェイク
Webサイトの表示を速くするには、サーバーとの「挨拶(ハンドシェイク)」をいかに短くするかが鍵となります。
TLS 1.2までの手順
これまでは、暗号化通信を始めるまでに、クライアントとサーバーの間でデータを2往復(2-RTT)させる必要がありました。ユーザーの環境によっては、この「挨拶」だけで数百ミリ秒の遅延が発生していました。
TLS 1.3の手順
TLS 1.3では、最初のメッセージに「あらかじめ推奨される暗号方式」の情報を盛り込むことで、わずか1往復(1-RTT)で暗号化通信を完了させます。 さらに、過去に接続したことがあるサーバーであれば、挨拶を待たずに1通目からデータを送れる「0-RTT(Zero Round Trip Time Resumption)」という驚異的な高速化も実現しています。
「暗号化」をさらに強固にする技術
第31回で学んだ「電子署名」と同様、TLS 1.3も数学的な仕組みでデータを守りますが、1.3ではさらに一歩進んだ保護機能が標準化されています。
前方向秘匿性(PFS:Perfect Forward Secrecy)の標準化
これは、「たとえ将来、サーバーの秘密鍵が盗まれたとしても、過去に記録しておいた暗号通信を解読できない」という仕組みです。TLS 1.3ではこのPFSを実現する方式(エフェメラル鍵交換)が必須となり、長期的なプライバシー保護が強化されました。
ゼロトラストとIDaaSを支える「土台」
第39回で解説した「ゼロトラスト」や、第41回で紹介した「IDaaS」においても、TLS 1.3は欠かせない存在です。
特にIDaaSでの多要素認証や、第42回で学んだ「パスキー」による認証を行う際、その通信経路そのものがTLS 1.3で守られていなければ、どれほど高度な認証技術を使っても意味がありません。
まとめ
TLS 1.3は、第29回で学んだSSL/TLSという土台の上に築かれた、「速さ」と「安全性」を究極まで追求した最新プロトコルです。
- 高速化: ハンドシェイクが1往復(または0往復)になり、表示速度が向上。
- 高セキュリティ: 脆弱な暗号を廃止し、設定ミスを防ぐ。
- PFS必須: 過去の通信も未来の脅威から守る。
次回の第44回では、万が一、通信を抜けて端末に侵入された後の動きを検知・封じ込める最新技術「EDR(Endpoint Detection and Response)の仕組み」について詳しく解説します。


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