クラウドシフトが進む現代のIT環境において、「境界型セキュリティ」に代わる新しい守りの要となっているのがIAM(Identity and Access Management:アイアム)です。
第33回で解説した「認証と認可の違い」を、組織全体で誰が・いつ・どのリソースにアクセスできるかを一元的に管理する仕組みを指します。今回は、IAMがなぜ重要なのか、その中核となる機能と導入のメリットについて詳しく解説します。
IAMを構成する「ID管理」と「アクセス管理」
IAMはその名の通り、大きく分けて2つの役割で構成されています。
ID管理(Identity Management / IdM)
ユーザーのライフサイクル(作成、変更、削除)を管理します。
- プロビジョニング: 新入社員が入社した際、メール、チャット、ファイルサーバーなどのアカウントを一括で自動作成すること。
- ライフサイクル管理: 異動による権限変更や、退職に伴うアカウントの即時停止(デプロビジョニング)を行い、幽霊アカウントによる不正利用を防ぎます。
アクセス管理(Access Management / AM)
認証されたユーザーが、特定のリソースに対して「何ができるか」を制御します。
- 認証の強化: 第36回で学んだ「多要素認証(MFA)」を強制し、ログインの安全性を高めます。
- 権限の付与: ユーザーの職責に応じて、必要なリソースへのアクセス権を動的に割り当てます。
IAMが必要とされる理由:ゼロトラストへの対応
これまでの社内ネットワークは「内側は安全、外側は危険」という境界型で守られてきました。しかし、リモートワークの普及やSaaSの利用拡大により、境界線は消滅しました。
そこで、「何も信頼しない」ことを前提とするゼロトラストの考え方が重要になります。IAMは、アクセスのたびに「正しい本人か(認証)」と「権限はあるか(認可)」を厳密にチェックする、ゼロトラストにおける「新しい境界線(アイデンティティ・ペリメータ)」の役割を果たします。
IAMの重要コンセプト「最小権限の原則」
IAMを運用する上で最も重要なルールが、最小権限の原則(Principle of Least Privilege)です。
これは、ユーザーに対して「業務を遂行するために必要な、最小限の権限のみを与える」という考え方です。
- 例: 閲覧だけで済む担当者には「編集権限」を与えない。
- 例: サーバーメンテナンス時だけ一時的に「管理者権限」を付与し、作業終了後に剥奪する。
これにより、万が一アカウントが乗っ取られたり、内部不正が発生したりした場合でも、被害を最小限に抑えることが可能になります。
企業がIAMを導入するメリット
第35回で解説した「SSO(シングルサインオン)」はIAMの一部と言えますが、IAMとして包括的に管理することでさらなるメリットが得られます。
- ガバナンスの向上: 「誰がどの権限を持っているか」が可視化され、棚卸し作業が容易になります。
- コンプライアンス対応: 操作ログ(監査ログ)を記録することで、「いつ誰がデータにアクセスしたか」を後から追跡できるようになり、ISMS等の監査対応がスムーズになります。
- 運用の自動化: 人事システムと連動させることで、入退職に伴うアカウント管理ミス(消し忘れ)を物理的に排除できます。
まとめ
IAMは、単なるログインの仕組みではなく、組織のITリソースを守るための「司令塔」です。
- ID管理でユーザーのライフサイクルを正しく回す。
- アクセス管理で最小権限の原則を徹底する。
- ゼロトラスト時代において、最も投資すべきセキュリティ基盤である。
次回の第39回では、現代セキュリティの標準戦略である「ゼロトラストとは?」、そして第40回では「最小権限の原則(PoLP)」について、さらに深く掘り下げていきます。


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